「ヴェルファイア・セダン」という言葉を見て、トヨタが新型モデルを出すのかと思った人も多いはずです。残念ながら(?)これはトヨタの新車ではありません。千葉県成田市にある日本自動車大学校(NATS)の学生たちが手がけた、世界に一台だけのカスタムカーです。
この記事では、話題のヴェルファイア・セダンの誕生背景から外装・内装のカスタム内容、スペック、そして車検取得と公道デビューまでを、まとめて解説します。「買えるの?」「どんな車なの?」という疑問にも、ひとつひとつ答えていきます。
ヴェルファイア・セダンは発売されるの?
結論から言うと、ヴェルファイア・セダンは市販車ではありません。
そもそもトヨタの新型車ではない
ヴェルファイア・セダンは、トヨタ自動車が開発・販売するクルマではありません。
名前こそ「ヴェルファイア」を冠していますが、これはNATSの学生たちがトヨタのミニバン「ヴェルファイア」のフロントフェイスをセダンに移植したカスタムカーであり、メーカーとは無関係の一台です。
つまり、「発売はいつ?」という問いへの答えはシンプルで、発売予定はありません。
ただし、その完成度があまりにも高いため、東京オートサロン2026では「これメーカー公式が作ったみたい」「次世代のクラウンやセンチュリーの姿では?」といった声が上がるほど話題を集めました。トヨタ自動車の会長・豊田章男さん(モリゾウ)も現地で対面し、「面白い!セダン復活、めちゃくちゃいい」「すごいことやったね!」と絶賛。さらに「これいいなぁ。パクるかもしれない」とまで口にしていたといいます。
学生の卒業制作として生まれた一台
ヴェルファイア・セダンは、NATSのカスタマイズ科の卒業制作として誕生しました。
毎年、NATSの学生たちは東京オートサロンへの出展を目標にカスタムカーを製作します。卒業制作の集大成として公の場に作品を発表し、車検取得まで目指すというのが同校の伝統です。
制作予算は100万円。 この金額の中で、アイデアから完成まですべてをやり遂げなければなりません。自動車のカスタムという文脈で考えると、決して余裕のある予算ではありません。
にもかかわらず、完成したヴェルファイア・セダンはプロのカスタムショップが手がけたとしても遜色ないクオリティ。だからこそ多くの人を驚かせたわけです。
NATSってどんな学校?
そもそもNATSとはどんな学校なのか、知らない人のために少し説明しておきます。ヴェルファイア・セダンの凄さは、その背景を知るとより深く刺さります。
千葉県成田市にある自動車専門学校
NATS(日本自動車大学校)は1989年、千葉県成田市に開校した自動車専門学校です。
正式名称は「学校法人日本自動車大学校」で、自動車整備士やカスタマイズのプロを育てることを目的とした専門学校です。キャンパスの広さは東京ドーム3個分にも及び、専用サーキットまで敷地内に有しています。
整備士を育てる側面だけでなく、スーパー耐久や学生フォーミュラへの挑戦にも積極的で、実戦的な自動車教育を行っているのが特徴です。卒業生は「550万人の仲間」として自動車産業全体を支える人材として巣立っていきます。
1997年から続く東京オートサロン出展の伝統
NATSが東京オートサロンへの出展を始めたのは1997年。
以来、毎年欠かさず作品を出展し続け、東京オートサロン2026の時点で28年連続・247台という記録を誇っています。単なる学校のPR活動ではなく、「実際に動く、実際に走れる、完成度の高いカスタムカーを作る」というNATSの哲学が結晶化したイベントです。
毎年テーマやベース車両を変えながら、そのつど来場者を驚かせてきました。
歴代の代表作が示す技術力
NATSがオートサロンに持ち込んできたカスタムカーには、印象的な作品がいくつもあります。
記憶に新しいのは、2023年に出展されたセンチュリーのリムジン化。このクルマは当時トヨタ社長だった豊田章男さんの目に留まり、「トヨタイムズ」でも紹介されました。今回のヴェルファイア・セダンも同じく豊田章男さんが絶賛したことで、NATSの名前は一段と広く知られるようになりました。
ほかにも東京オートサロン2026では、「HA30グロリア」や「C91スパイダー」といった作品も並んで出展されており、ヴェルファイア・セダン以外も見どころの多い年でした。
なぜヴェルファイアをセダンにしたの?
ここからが本題です。なぜ学生たちは「ミニバンをセダンにする」という、ちょっと逆張りなアイデアにたどり着いたのでしょうか。
クラウンの多様化から着想を得た製作コンセプト
コンセプトのヒントになったのは、トヨタ・クラウンの「多様化」でした。
現行クラウンはモデルチェンジを機にブランド化し、セダン一本だったラインナップが「クラウン・スポーツ」「クラウン・クロスオーバー」など複数モデルへと広がりました。その「1車種で複数のボディ形式を展開する」という動きを見ていた学生たちが、逆の発想をしたのです。
「SUVブームが続く今だからこそ、ミニバンをセダンにしてみたらかっこいいのではないか。」
その一言が、このプロジェクトの出発点でした。逆張りとも言えるアイデアですが、「みんながSUVに行くなら、うちはセダンで行く」という判断には、確かな理屈があります。
ベース車両にレクサスLS460を選んだ理由
コンセプトが固まったあと、重要になったのはベース車両の選定です。
「セダンでV型8気筒エンジンを積んだ車にしたい」というのが学生たちの意向でした。最初からV8搭載を前提に話が進んでおり、白羽の矢が立ったのが2011年式のレクサスLS460(USF40型)です。
V8エンジン搭載のセダンというだけでなく、「型落ちの高級車に現行フェイスを移植する面白さ」も狙いのひとつ。「古いクルマに最新の顔を与える」というカスタムの醍醐味を追求した選択でもありました。
予算面でも中古のLS460は取得しやすく、100万円という制約の中で現実的な選択肢だったことも大きな理由です。
製作案発表から東京オートサロンまでのタイムライン
ヴェルファイア・セダンが世に出るまでの流れを整理しておきます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年6月27日 | 製作案発表会で企画が初披露 |
| 2026年1月9〜11日 | 東京オートサロン2026(幕張メッセ)に出展 |
| 2026年2月6日 | 校内で車検前の最終確認を実施 |
| 2026年2月9日 | 車検通過・ナンバー取得(「・・72」はNATSから) |
| 2026年3月上旬 | 公道デビュー。走行動画をSNSで公開 |
約8ヶ月かけて構想から公道走行まで辿り着いたことになります。製作期間を考えると、学生たちがどれだけのスピードで動いたかがわかります。
外装カスタムのこだわりポイント
ヴェルファイア・セダンを語るうえで、外装のカスタムは避けて通れません。
見た目のインパクトだけでなく、その裏にある技術的な難しさを知ると、このクルマへの見方が変わります。
最大の難関、バンパー短縮加工
外装カスタムの中で、もっとも難易度が高かったのがフロントバンパーの加工です。
ミニバンであるヴェルファイアとセダンであるレクサスLSでは、フロント周りの「厚み」が根本的に違います。ヴェルファイアのバンパーはミニバンの車高に合わせて高さがあるため、そのままLSに装着しようとしても絶対にフィットしません。
学生たちが取ったアプローチは、純正バンパーを上下に分割し、中央部分を大胆にカットすることで高さを約3分の1に短縮するというものでした。ヴェルファイアの象徴でもある横一文字のメッキガーニッシュを崩さずに、しかもLSのボディラインに自然に収まるよう成形し直すのは、高い技術が必要な作業です。
なお、フロントライト系とテールライト周りはトヨタ自動車からの協賛を受けており、純正のヘッドライトとテールライトをそのまま流用しています。
オーバーフェンダーとボンネット延長で実現したシルエット
バンパーの加工が終わっても、課題はまだ続きます。
ヴェルファイアのワイドなフロントフェイスをLSのボディに乗せると、当然ながらフェンダーとの幅のバランスが崩れます。そこで前後のフェンダーをオーバーフェンダー化し、金属で新たに製作しました。
ボンネットとトランクリッドも延長加工を施しており、プレスラインが自然につながるよう一部は作り直しています。LS460のプロポーションを保ちながら、ヴェルファイアのフロントフェイスが「最初からそこにあったように見える」仕上がりを目指した結果です。
ホイールはWORK「LS ADAMAS」を選択。車名と同じ「LS」の名を冠するホイールというのも、学生たちらしいこだわりです。サイズはフロント21×9.5J、リア21×10Jで、ヨコハマタイヤのADVAN Sports V107(255/35R21)を前後に履いています。
ヴェルファイア純正パーツをどう組み込んだか
ヴェルファイアの顔を再現するにあたって、学生たちは純正パーツを最大限に活用しました。
使用した純正パーツを整理すると以下のとおりです。
- ヴェルファイア純正ヘッドライト
- ヴェルファイア純正テールライト
- ヴェルファイア純正サイドドアプロテクター
- GVF50型レクサスLS用社外リアバンパー
純正パーツをそのまま付け替えるのではなく、カットや成形を加えながら「セダンのボディに違和感なく溶け込ませる」のが腕の見せどころです。
リアに関しては、ヴェルファイアのテールランプをインストールするためにクォーターパネルを金属で一から製作。前後のオーバーフェンダーも金属製で、スチールワークの精度がそのままクルマ全体の完成度に直結しています。
ボディカラーは「プレシャス・ブラック・パール」。VIPカーとしての存在感を最大限に引き出すために、黒を選択しました。
スペックと内装を詳しく見てみよう
見た目の話だけでなく、このクルマがどんなスペックを持ち、中に乗り込んだらどんな世界が広がるのかも気になるところです。
4.6リッターV8×FR、セダンとして走れる理由
ヴェルファイア・セダンのメカニズムは、ベース車両のレクサスLS460をほぼそのまま継承しています。
エンジンは4.6リッターV型8気筒、駆動方式はFR(後輪駆動)。 ミニバンのヴェルファイアはFFですが、このカスタムカーはFRセダンとして走ります。V8エンジンをFRで駆動させるというレイアウトは、かつての高級セダン(センチュリー、セルシオなど)が採用していた組み合わせで、「本物の高級セダン感」を体感できる構成です。
学生たちがあえてV8時代のLS460を選んだのは、この走行フィールへのこだわりがあったからこそ。見た目だけでなく、走りでも「高級セダン」を表現したかったということです。
全長5060mmを超えるボディサイズ
LS460のボディにボンネットやトランクの延長加工を加えたヴェルファイア・セダンのサイズは以下のとおりです。
| 寸法 | サイズ |
|---|---|
| 全長 | 5060mm |
| 全幅 | 1875mm |
| 全高 | 1465mm |
全長5メートルを超える堂々としたサイズ感は、現行のトヨタ・センチュリー(全長5335mm)に近い印象を与えます。
白内装×エアサス、ラグジュアリーな内装の仕上げ
「顔に負けない内装にしたかった」という学生の言葉どおり、インテリアも相当な作り込みが施されています。
フロント・リアシートにはホワイトのシートカバー(エルティード製)を装着し、ダッシュボードはスエードに張り替え。ステアリングはウッドコンビ・ガングリップタイプに変更されています。
特にこだわったのはリアシート周りです。リアセンターコンソールは学生たちが自作しており、大理石調の仕上げに水中花を封入、さらにライトアップ機能まで組み込まれています。「昔の高級車のようなVIPカー感」を意識したという演出で、乗り込んだ人が思わず「おっ」と声を上げるような空間です。
灰皿まで装備しているのも時代錯誤な、ある意味でのこだわりポイント。サスペンションはLS460純正のエアサスを活用したローダウン仕様で、見た目のスタンスもバッチリ決まっています。
車検を通過して公道デビュー!SNSの反響は?
東京オートサロンでデビューを飾ったヴェルファイア・セダンは、その後も進化を続けました。
ショーカーとして展示されて終わるのではなく、実際に公道を走れる状態に仕上げるまでが、NATSの流儀です。
2026年2月にナンバーを取得、卒業旅行で走る予定
2026年2月6日、NATSのカスタマイズ科の公式Xに「本日、学校内にある検査ラインで車検に向けた最終確認を行いました。来週月曜日に車検なのでちょっとドキドキしています。無事に通ってほしいです」という投稿が上がりました。
ボンネット、フェンダー、サイドステップ、リア周りと、ほぼすべてを大きく作り替えているカスタムカーの車検取得は、並大抵のことではありません。それでも学生たちは見事にクリアし、2月9日に「無事にナンバー取得完了!皆さん頑張りました」という報告が届きました。
取得したナンバーの末番は「72」。NATSを「ナッツ(7と2)」と読んだ、学生たちらしいユーモアです。
NATSでは、車検を取得したカスタムカーで製作担当の学生たちが実際に卒業旅行に出かけるのが恒例となっています。ヴェルファイア・セダンも同様に、学生たちを乗せて旅に出る予定でした。
「新型セルシオじゃん」SNSに集まった声
東京オートサロン2026でのデビューから、公道走行動画が公開された2026年3月にかけて、ヴェルファイア・セダンへの反響は止まりませんでした。
SNSに寄せられた主なコメントには、次のようなものがありました。
- 「新しい高級車の完成形だ!」
- 「すぐ購入します」
- 「迫力あってカッコイイ」
- 「公道で見かけてみたい」
走行動画が公開されると特に反響が大きく、「新型セルシオじゃん」という声も多く上がりました。確かに、黒塗りの巨大なセダンがV8エンジンの低音とともに走る姿は、1990年代の高級セダン全盛期を思い起こさせます。
「メーカー公式が作ったみたい」という評価が自然発生的に広がったことが、このクルマの完成度を何より雄弁に語っています。
ヴェルファイア・セダンは購入できる?
ここまで読んできた人の多くが気になっているであろう、核心的な問いに答えておきます。
販売は不可、世界に一台だけの理由
ヴェルファイア・セダンは非売品です。購入することはできません。
これはNATSの卒業制作として製作されたカスタムカーであり、市販を目的としていません。部品の一部にはトヨタからの協賛品も含まれており、そもそも量産・販売を前提とした構造でもありません。
ただし「世界に一台しかない」という事実が、このクルマの価値をある意味で高めています。どこかのディーラーに行けば買えるクルマではなく、千葉の学生たちが100万円の予算と情熱で作り上げた、唯一無二の一台。そのストーリーごとを含めて「価値がある」と感じる人は多いはずです。
NATSに行けば本物に会える可能性も
直接購入はできませんが、NATSのカスタムカーに会う方法はあります。
毎年1月に開催される東京オートサロンでは、NATSが新作カスタムカーを引き連れて出展します。過去の作品が学校に保存されているケースもあるため、成田市のキャンパスを訪問する機会があれば、ヴェルファイア・セダンと対面できるかもしれません。
また、NATSの学生たちが卒業旅行に出かける際は、このクルマで公道を走ります。2026年3月に走行動画が公開されたように、千葉県近郊で遭遇する可能性も、ゼロではありません。
まとめ:ヴェルファイア・セダンは買えないが、本物のカスタムカーだった
ヴェルファイア・セダンに発売予定はなく、購入することもできません。トヨタの新型車でも、有名カスタムショップの作品でもなく、予算100万円でNATSの学生たちが作り上げた卒業制作です。
それでも豊田章男さんが「パクるかもしれない」と言い、SNSで「すぐ購入します」の声が溢れ、車検まで通って公道を走った。このクルマが証明したのは、「発想力と技術力さえあれば、予算の壁を超えられる」というシンプルな事実です。
「ヴェルファイアをセダンにしたらかっこいいんじゃないか」というひとつの問いから生まれたこのクルマは、2026年のカーカルチャーに小さくない爪痕を残しました。来年のNATSが何を作ってくるのか、今から楽しみです。

